へほは日記

無感動な大人を卒業して、感動屋なおじさんになります。

鬼平逝く

中村吉右衛門さんが亡くなった。

歌舞伎役者だが、ワタクシにとっては鐵っつぁん、つまり鬼の平蔵だ。

 

鬼平犯科帳池波正太郎さんの原作がよいのは確かだ。

時代劇にありがちな白黒はっきり付ける勧善懲悪ではなく、善と悪が表裏一体なのが池波ワールドの基本。

 

鬼平犯科帳でも、準主役は同心や与力ではなく「犬」だ。

おまさ、小房の粂八、相模の彦十、大滝の五郎蔵親分たち。

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軍鶏鍋を囲むみなさん

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五郎蔵は元親分なので、ちょっと立ち位置が違う

鬼平犯科帳の良さは、これら準主役の「犬」たちと居るときのおだやかな「鐵っつぁん」と、救いようのない「悪」に立ち向かうときの容赦ない「鬼平」の二面性だ。これも表裏一体。

 

要するに人間って、一面ではない。善だけの人間っていないわけじゃないけど、どこかネジが外れていたりする。まれに信じられないほどの「悪」だけの人間もいるが、めちゃレアであって、たいていの人は善悪あわせ持っている。

 

鬼平はそれを理解したうえで、清濁併せ飲む度量があり、善悪併せ持つタイプの盗人を準主役に引き上げる。これが魅力だろう。

 

そして吉右衛門さん。

 

ワタクシはそれ以前の鬼平を知らないので、比較のしようもないが、上記のような度量の大きい「鬼平」を見事に演じあげている。

殺陣の動きが若干重いのはご愛敬で、粟田口国綱の裁きは素晴らしい。

 

何より一番なのは、「鐵っつぁん」のときの人懐っこい笑顔だ。五鉄で軍鶏鍋をつついているときの吉右衛門さんは心底楽しそうだ。

 

蟹江敬三さん、江戸家猫八さん、綿引勝彦さんもすでに鬼籍であり、綿引さんは分からないが、蟹江さんと猫八さんとは軍鶏鍋をつついていることだろうとワタクシの中ではそのシーンが浮かんでいる。

 

素晴らしい鬼平をありがとうございました。ワタクシにとって永遠のヒーローです。